masato-ka's diary

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SORACOM LTE-M Button powerd by AWSがIoTアーキテクチャの優れたリファレンスモデルな件

この記事について

この記事ではSORACOM LTE-M Button powerd by AWSについてのファーストインプレッションを紹介する。7月の発表から発売まで首を長くして待ち、ようやく手元に届いたこの製品。IoTを実現するシステム、デバイスのお手本と言ってもいいくらい綺麗な作りになっていた。この記事ではSORACOM LTE-M Button powerd by AWSがなぜIoTのお手本と言えるのか考察していく。 以下のツイートをしっかりと文章にした内容だ。

SORACOM LTE-M Buttonについて

SORACOM LTE-M Buttonは7月に行われたSORACOM Discoveryイベントで発表されたソラコム初の自社デバイスだ。中身はAWS IoT ボタンAmazon dashボタンのベース)で、AWS IoT 1Clickサービスを使って利用することができる。 このデバイスができることはAmazon dashボタンのように、ボタンをクリックすること。ボタンのクリックは3パターンあり、それぞれシングルクリック、ダブルクリック、長押しである。ボタンをクリックするとAWS IoT 1Clickへイベント情報を送信する。ユーザはAWS IoT 1Clickに送られたイベントを処理することで任意のアプリケーションを実装することができる。処理はAWS Lambdaで記述する。  このようにデバイス自体の機能は本家AWS IoTボタンと一緒である。しかし、SORACOM LTE-M Button powerd by AWSKDDI社の LTE-Mと呼ばれる、LTEの通信網を利用したLPWA規格を採用している。この回線を利用することでWiFiを必要とせず、デバイス単体でAWSへのコネクティビティを確保している。

blog.soracom.jp

何がIoTアーキテクチャのリファレンスとして優れているのか?

ここからはSORACOM LTE-M Button powerd by AWSがIoTのお手本たる理由について語っていきたい。

1. シームレスなデバイスアクティベート

SORACOM LTE-M Button powerd by AWSはパッケージ開封後、すぐにAWSに接続することができる。すぐという言葉は曖昧だがおそらく最短30秒もあれば十分な時間だろう。本体の裏にあるデバイスコードをAWS IoT 1Clickのデバイス登録画面に入力し、画面の案内に従い、デバイスのボタンを一回クリックすれば完了する。  もちろんAWS IoT 1Clickの仕組みがシンプルという見方もできる。しかし、最も大きい理由はLTE-Mを使うことで、WiFi接続をすっ飛ばすことができるという点だ。 従来この手のデバイスWiFiを利用していた。そのためにデバイスを一度設定モードで起動(WiFiアクセスポイントになったりする)しスマートフォンから専用アプリかWebブラウザで接続し、WiFiのパスワードや酷い場合は専用クラウドサービスのパスワード入力を必要というお世辞にもスマートとは言えない解決方法を提供してくれていた。またWiFi接続を利用することで実質的に屋内での利用に限定されていた。この問題をLTE-Mとソラコムの基盤でものの見事に解決してくれたのだ。  当然利用するユーザにとって接続の利便性を提供するだけでなく、利用するシーンを限定しないという利点がある。ユーザがデバイスを利用するために何を提供すれば良いのか、非常に参考になる。

  • 実際の設定方法がみたい方は以下公式ドキュメント参考のこと。

SORACOM LTE-M Button powered by AWS をクリックしてSlackに通知する | Getting Started with SORACOM LTE-M Button | SORACOM Developers

2. 標準で提供されるデバイス管理機能

SORACOM LTE-M Button powerd by AWSAWSへの登録以外にソラコムの対応サービスへ登録を行う必要がある。登録しなくても利用はできるのだが、通信料の更新などができない。欲を言えばこの部分はAWS登録と連動してほしかった。が、この一点に目を瞑れば、この登録もユーザにはメリットがある。なぜならば登録することでデバイスの管理がソラコムのユーザコンソール画面から行えるからだ。実際の管理画面は以下のように見える。

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残りのクリック回数や残電池量を見ることができる。また、最後に接続した時間やその際のイベントのペイロードとしてJSONデータを確認することができる。デバイスや障害調査だけでなく、ユーザの利用状況調査などIoTサービスの本質的な情報の収集という点で非常にありがたい情報だ。デバイス管理を行う上で何の情報に気をつけて取得すれば良いのか参考になる。

3. 責務の境界とセキュリティ

 最後にユーザの 目に触れないが、無意識のうちに重要な部分だ。実は前項で紹介したシームレスなデバイスアクティベートも標準で提供されるデバイス管理機能も、ソラコムサービスとAWSの役割がしっかりしているため、結果として実現されいる機能だと考えている。  現状知りうる範囲から推測できるSORACOM LTE-M Button powerd by AWSアーキテクチャを起こしてみた。

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 SORACOM LTE-M Button powerd by AWSKDDI社のLTE-M網を経由してソラコムの基盤につながる。ここは他のソラコムサービスと同じだと考えられる。そこからSORACOM Beamを使ってAWS IoT 1clickへ接続されているようだ。そのため、公衆インターネット回線へ出ることなくデータをセキュアにAWSへ転送できる。 また、デバイス管理機能はソラコムのサービス内で完結している。もちろんAWS側で同等の機能を組むこともできるだろうが、基本的にはAWSはアプリケーションの実現に集中することができる。  つまり、アプリケーションを実現するAWSサービスとデバイスの安全なコネクティビティと管理を実現するソラコムサービスというサービス間の責務の分解が施されている。IoTサービスで様々なサービスが似たような機能を重複して提供している。その中でソラコムのサービスの位置付けとしてIoTアーキテクチャの下回りをしっかりと提供し、他者クラウドサービスはアプリケーション実現のみに利用できるという一種のレイヤー構造を提示しているのではないだろうか。今回のSORACOM LTE-M Button powerd by AWSでは難しいかもしれないが、こういったレイヤー構造を組んでおけば、アプリケーション層をオンプレミスな環境として組むことや、費用やサービスのスケールに伴い、利用するクラウドを変えいてくことをユーザやデバイスへの負担なく実現できることだろう。IoTの全体アーキテクチャを考える際に非常に参考にしたい点だ。

まとめ

このようにソラコムの基盤とAWSのサービスをうまく繋ぎこみ、デバイスの提供と運用を実現している。ソラコム自社で提供する基盤だけあってソラコムのポテンシャルが十分に発揮できていると思った。もちろんエンドユーザ向けサービスとしてのユースケースやビジネスモデルは存在しない。これはこのデバイスを使うユーザが作り上げる必要がある。しかし、どうやってデバイスをユーザに届けるか、どうやって自分たちのビジネスモデルを実現するアプリケーションを作るか、どうやってサービスを運用していくか、こういったIoTサービスを実現する上考えなければならない問題についてその解の示唆を与えてくれている。SORACOM LTE-M Button powerd by AWSはまさしくIoTアーキテクチャの優れたリファレンスモデルとなっている。きっと僕たちがいつまでも実現しないからソラコムが自分たちで作ってしまったのだ!

ちなみに現在(2018年11月4日)キャンペーン価格中で3980円で購入することができる。キャンペーンの終了時期は未定だが、この機会にぜひこのデバイスを体験していただきたい。Amazon dashボタンをハックして喜んだり、温度センサの値をWEBブラウザでグラフにしてIoTとか言って喜んでいる場合ではない。

soracom.jp